【童話】登れない石塔

 昔ある辺境の街に、高い高い石の塔がありました。

街の人々はそれを神の塔と呼び、崇めておりました。

階段も梯子もないその塔は頂上まで登る術はありません。登れたものは英雄になれると言われておりました。

街の男たちは何とかして登ろうと躍起になり、あるものは無理矢理よじ登ろうと、またあるものは長い長い梯子を作って登ろうとしましたが、あまりに高いその頂点には到底届きません。

 


 その街の隅っこに、貧しい石工が住んでいました。

石工は登れないなら自分で塔を作ればいいと考え、毎日コツコツと石を積みました。

石は小さな塔になり、やがて上へ上へと伸びていきました。

気づいた時には、街の一番高い塔よりも高い塔になっていました。

その石工はその塔に階段をつくり、街のみんなが登れるようにしました。

石工は街のみんなにだれでも頂上にいける、英雄になれる塔をつくったと広めました。

塔ができて暫くは人が殺到し、みんながみんな先を争って頂上にいきました。

そして気づいた時には街のほとんどの人が「英雄」になっていたのです。

しばらくするとだれも石工が作った塔に登ろうとはしませんでした。

まるで英雄になることに興味がなくなってしまったのでした。

石工はとても不思議に思いました。

どうしてみんなが英雄になれたのに、幸せになれないんだろう。

 


 石工は今度は階段も梯子もない、さらに高い塔を作りました。

この塔に登れたら真の英雄になれると街の人々広めました。

街の人々は先を争ってその塔に登ろうとしました。

しかしあまりに高いその石の塔の頂上へはどう頑張っても登れないのでした。

しばらくすると隣の街からも遠くの街からも真の英雄になりたいと人々が集まりました。

石工はとても不思議に思いました。

どうして人は登れない塔が好きなんだろう。

石工はひとつの答えに辿り着きました。

人はきっと隣の誰かが英雄なのが気に入らないんだ。

自分だけが英雄になれるとみんなが信じているんだ。