【小説】太陽は語らない②

「翔太ってさ、昔から俺らに自分のこと喋らなかったよな。」

急に真面目な顔になって、秋斗は話し出した。

秋斗にはたまにこういう時がある。

急に核心をつくというか、人やものをよく見ているのだ。

 

 翔太んちは普通の家庭だった。

 父親はみたことがなかったが、家に遊びに行くと母親はいつでも笑顔で迎えてくれた。

 

放課後よく一緒に遊んだが、翔太は必ず妹の世話があると18時に家に帰った。

夜中にふざけたメールをしても返ってこなかった。翌朝ごめん寝てたとだけ返ってきた。

 

妹はいないらしい。

翔太の噂が広まったときがあった。

よく考えれば母親もいながら、兄が妹の世話なんてするのだろうか。

おれは気になってしまった。

 

あるとき夜中、翔太の家を覗きにいったことがあった。

パスンパスンと音が聞こえてきた。

俺にはそれが壁にボールを当てる音だとすぐにわかった。

翔太は夜中にずっとボールを蹴っていたのだ。

彼は心からサッカーを愛していた。

 

おれは悔しさと焦りをおぼえた。

嘘をついて練習してる翔太に憤りさえ感じていた。

 

「おれこれから家帰ってから毎日練習パス出しの練習するから」と友人達にいった。

「え、毎日?お前すげーな絶対おれゲームやっちゃうわ」

友達は笑っていた。それが秋斗だった。

翔太の深夜練の話もすぐに学校中に広まった、というか俺が秋斗に深夜に見たことを言ってしまったから、通称「サッカー部の放送係」が言いふらしてしまったのだった。

 

学校の中では悪く言うやつも現れた。

「妹いるなんて嘘ついて、付き合いわるい」とか、

 

翔太は何も言わなかった。

すまん、おれ、助けてあげれる勇気もない最低野郎だ。

そう言って俺は翔太にパスを出す。

 

あぁ、やっぱり翔太は強い。悔しいくらいに、、。

 

おれは悔しさで泣きそうになり、唇を噛み締めた。

おれは小学生ながら理解してしまった、一生かかっても翔太には勝てないってことを。

中学生でありながら、小柄でありながら、彼の中にある芯は何があっても揺らがない。

おれが向かえば向かうほど翔太は遠くへ行ってしまう。

こうして、一生追いつけない友人は誕生したのだった。

 

なぜ翔太は言わなかったのか。

サッカーの練習のために妹がいると嘘をつく必要などなかった。他の人に努力させないためじゃない。彼は自分のために言わないことにしていたんだ。