自作小説「雨の色、海の色。」(1)
ある日、私はつまらぬ絵を描いた。
夜遅くに家に帰った私は、冷蔵庫の麦茶をコップに注ぎそこに氷を2、3個ほど浮かべると半分をぐいと飲み干した。
そのままそそくさと自分の部屋へ行き、押入れの奥から昔使っていたカビの生えかかったホルベインの絵の具と毛先の開ききった絵筆を取り出した。
そして、スタンドライトの光だけの薄暗い部屋で私は青に惹かれ、青色の絵の具をスケッチブックにぶつけていた。
セルリアン、ターコイズ、、、
まず私はパレットの上にこれらの青色を乗せ水で絵筆を湿らせた後、白紙の上に順番に並べてみた。
やはり青色には違いない。しかしこれではない。
次にそれらの青色をパレットの上で混ぜ合わせ、色を作った。
色の深みは増すのだが、何かが違う。
描いても描いても、私の求めている青とは程遠い。
何を求めているのか自分でもわからずにただひたすらに絵の具を混ぜ続けていた。
自分が求めている青が「青」ではない事に気付いた頃には外は明け方近くになっていた。
私はあの美術館でみた青への衝撃にもう一度出会いたかった。
あの青にどうしてか惹かれていた。
それに出会ったなら、私は世界の真実に触れられるような、そんな気がして興奮していた。
まるで子供の無邪気さであった。
私はただ、つまらぬ絵を描いていた。
私は暫くの間、大学を休んだ。
万が一外にいるとき、また「青の衝動」にかられ絵を描きたくなることを恐れたからである。
画材道具を外に持ち出すのもいいがそれも馬鹿らしい。
そう考えてしばらくは家で怠けていた。
だが、いつになってもその衝動は訪れない。
大学の友人には、「青の衝動」を待っているなどとも言えずに体調不良と言い訳していた。
ある日とうとう友人から、大学の提出物とテストについて、いつまで学校に来ない気なんだという内容の電話をもらった。
気づけば7月も半ばを過ぎている。
学校を「衝動待ち」で休み始めてから1ヶ月が経とうとしいるではないか。
よく考えると阿呆らしくなって、私は学校への復帰を決めた。